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名古屋地方裁判所一宮支部 昭和40年(ワ)74号 判決

原告 熊谷千代子 外三名

被告 国

訴訟代理人 川本権祐 外一名

主文

被告国は、原告四名に対し、各金一〇八、五〇〇円及びこれに対する、昭和四〇年七月一五日より完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

原告等の被告大岩幸一郎及び同株式会社マツダオート名古屋に対する各請求、並びに被告国に対するその余の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用中、原告等と被告大岩幸一郎及び同株式会社マツダオート名古屋間に生じた分は、原告等の連帯負担とし、原告等と被告国間に生じた分は、これを二分して、その一を原告等の連帯負担、その一を被告国の負担とする。

この判決は、原告等勝訴の部分に限り、被告国に対して、それぞれ仮に執行することができる。

被告国は、原告等に対して、各金一〇八、五〇〇円の担保を供するときは、それぞれ前項の仮執行を免れることができる。

事実

原告等訴訟代理人は、「(一)被告大岩幸一郎及び被告株式会社マツダオート名古屋は、各自、原告熊谷千代子に対し、金一、二四〇、〇〇〇円及びこれに対する、本件訴状送達の翌日より完済に至るまで、年五分の割合による金員を、原告熊谷明雄、同熊谷正恵及び同熊谷幸郎に対し、各金七二六、六六六円及びこれに対する、本件訴状送達の翌日より完済に至るまで、年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。(二)被告国は、右被告両名と連帯して、原告四名に対し、各金二三三、五〇〇円及びこれに対する、本件訴状送達の翌日より完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。(三)訴訟費用は、被告等の負担とする」との判決、並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のように述べた。

(一)  原告熊谷千代子(以下原告千代子という)は、訴外亡熊谷小次郎(以下、亡小次郎という)の妻、原告熊谷明雄(以下、原告明雄という)、同熊谷正恵(以下、原告正恵という)及び同熊谷幸郎(以下、原告幸郎という)は、それぞれその二男、三男及び四男である(長男充泰は、夭折した)。

(二)  ところで、亡小次郎は、昭和三九年五月一〇日午後九時三〇分頃、原動機付自転車に乗車して、岐阜県美濃加茂市古井町下古井地内の国道二一号線を東進中、太田橋北詰附近において、被告株式会社マツダオート名古屋(以下、被告会社という)の所有にして、被告大岩幸一郎(以下、被告大岩という)の運転する軽四輪乗用車(マツダ六三年式KPDA型、八愛て一一五二号、以下、本件自動車という)に衝突せられ(以下、本件事故という)、路上に転倒して、瀕死の重傷を負わせられ、六時間後に死亡するに至つた。

(三)  しかして、本件事故は、被告大岩が運転未熟にして、徐行を怠るなど、同被告の自動車運転上の過失に基因して、惹起せられたものであるから(ちなみに、同被告は、本件事故につき、御嵩簡易裁判所において、罰金刑に処せられ、その裁判が確定している)、被告大岩は、不法行為者本人として、亡小次郎並びにその妻子たる原告等に対し、本件事故によつて蒙つた損害を賠償する義務を負うべきはもとより、被告会社は、本件自動車の保有者として、本件事故による損害を賠償する責に任ずべき義務がある(自動車損害賠償保障法-以下、自賠法という-第三条)。

(四)  しかるところ、亡小次郎は、本件事故により、金一、九二〇、〇〇〇円の損害を蒙つた。すなわち、亡小次郎は、事故当時、年齢五五歳にして、東海観光株式会社日本ライン観光ホテル(岐阜県可児郡可児町)に、支配人として勤務し、給料(諸手当を含む)並びに賞与年間少くとも金六〇〇、〇〇〇円(月額金五〇、〇〇〇円)の収入を得ていたものであり、同人の就労可能年数は、政府の自動車損害賠償保障事業査定基準によつても、なお九・三年を残していたものであるから、同人は、事故に遇つて死亡しなければ、事故後少くとも五年間は、右会社に勤務しえ、毎年右金額以上の収入を得ることができたものであり、同人の生活費に月額金一〇、〇〇〇円を要するとして、その間に得べかりし純収入金二、四〇〇、〇〇〇円(年間金四八〇、〇〇〇円、月額金四〇、〇〇〇円)を、事故により喪失したものというべく、これより、ホフマン式計算法によつて、年五分の割合による中間利息を控除し、その現在価額を算定すると、金一、九二〇、〇〇〇円となり、右同額の損害を蒙つたものというべきである。

(五)  したがつて、亡小次郎は、被告大岩及び被告会社の各自に対し右損害賠償請求権を有していたものであるところ、原告等は、同人の死亡により、各自の相続分に応じて、それぞれこれを相続し、右被告等各自に対して、原告千代子は金六四〇、〇〇〇円(三分の一)、原告明雄、同正恵及び同幸郎はそれぞれ金四二六、六六六円(九分の二)の各損害賠償請求権を有するものである。

(六)  さらに、原告等は、亡小次郎の妻子として、その収入によつて扶養を受け、平穏円満な家庭生活を営んでいたものであるところ、突如として、本件事故により、原告千代子は長年連添つた夫を喪い、原告明雄は岐阜大学工学部を卒業して、日立製作所に入社し、ようやく妻アグリを迎えて、世帯を持つたばかりで、また、原告正恵は愛知工業大学電気科二年在学中に、原告幸郎は未だ高等学校三年に在学中、一家の支柱たる父を奪われたものであつて、原告等が受けた精神的打撃は、まことに深甚かつ重大であるというべく、右原告等が蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料の額は、少くとも、原告千代子に対しては金六〇〇、〇〇〇円、その余の原告等に対しては各金三〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

(七)  しからば、原告等は、被告大岩及び被告会社の各自に対し、原告千代子は前期相続の損害賠償請求権金六四〇、〇〇〇円と右慰藉料金六〇〇、〇〇〇円、合計金一、二四〇、〇〇〇円、原告明雄、同正恵及び同幸郎はそれぞれ前記相続の損害賠償請求権金四二六、六六六円と右慰藉料金三〇〇、〇〇〇円、合計金七二六、六六六円の各損害賠償請求権を有するものというべきである。

(八)  ところで、原告等は、原告等訴訟代理人を代理人として、昭和三九年一〇月犬山簡易裁判所に対し、被告大岩を相手方として、本件事故による損害賠償請求の調停を申立て(同裁判所同年(ノ)第七号事件)、昭和四〇年五月七日同裁判所において、同被告との間に、別紙調停条項記載のとおり、調停が成立し(以下、本件調停という)、同日同被告より、右調停条項第二項(1) の金五六六、〇〇〇円の支払を受けたのであるが、本件調停は、次項以下に述べるごとく、原告等代理人に要素の錯誤、たとえ、それがいわゆる動機の錯誤であるとしても、表示せられたそれの錯誤があつたものであるから、無効というべきである。

(九)  これより先、本件調停中に、本件自動車には、事故当時自賠法による保険が附されていないことが判明したため、原告等は、原告等訴訟代理人に委任して、本件事故による損害賠償につき、いわゆる政府補償を請求していたところ、岐阜査定事務所は、昭和四〇年三月九日右原告等代理人に対し、原告等に対する補償額を金九三四、〇〇〇円と査定した旨通知するとともに、これにつき、承諾を求めて来たので、同代理人は、原告千代子と協議のうえ、これに同意することとし、所定の査定額承諾書に署名、捺印して、これを同査定事務所に提出した。

(一〇)  したがつて、原告等代理人は、本件調停成立の前日までに、右政府補償査定額の支払を受けることはできなかつたが、近日中にその全額の支払を受けえられるものと信じ、かねて被告大岩に対し、政府補償額と合せて、最低金一、五〇〇、〇〇〇円の賠償を申入れていたので、右査定額による政府補償を前提として、前記調停条項を承諾し、本件調停を成立せしめるに至つたものである。

(一一)  しかして、原告等代理人は、同年五月一八日頃、本件調停調書正本の写しを作成して、前記岐阜査定事務所に調停の結果を報告するとともに、速かに前記査定額による政府補償が得られるよう、配慮方依頼しておいたところ、同月二六日頃、同査定事務所担当係員小河義一より、政府(運輸省)は前記原告等が調停において被告大岩より受領した金員を、自賠法第七三条第二項により、査定額よりさらに差引くような意向である旨、電話連絡を受け、事の意外に驚いて、同月二九日同査定事務所に赴き、右担当係員に対し、政府の補償額決定の時期等について、ただしているとき、たまたま、運輸省より電話があつたので、同省の担当係官に対し、右自賠法の規定に抵触しないよう、政府補償額を調停成立前の日附で決定する処置を考慮してもらいたい旨要望しておいた。

(一二)  しかるに、原告等代理人は、右期待していたような決定はついに得られず、同年七月三日岐阜査定事務所を通じて、政府の損害填補額を金四三四、〇〇〇円を決定するから、原告等の承諾を求める旨の通知に接し、ここに、同査定事務所を通ずる請求によつては、当初の同査定事務所査定額による政府の補償は求めえられないことが明らかとなるに至つた。

(一三)  かくのごとく、原告等代理人が本件調停条項を承諾し、被告大岩との間に、調停を成立せしめたのは、近日中に政府より、当初の査定額金九三四、〇〇〇円による損害填補を得られるものと信じたからであつて、原告等代理人は、これを前提として、本件調停を成立せしめたものであり、政府補償が金四三四、〇〇〇円より得られないとすれば、その点において、原告等代理人に錯誤があつたものというべく、右錯誤は、調停における合意の要素に関するものであり、たとえ、それが合意の動機に関するものであるとしても、表示せられたそれに関するものであること、本件調停条項の記載文言より明らかであるから(調停条項第二項(2) 但書は、当初の査定額が半額以下に削減せられるような場合をも予想したものではない)、本件調停は、無効というべきである。

(一四)  しかして、本件調停が無効であるとすれば、前記原告等が調停において被告大岩より受領した金員は、これを授受すべき原因を欠くこととなり、原告等は、自賠法第七三条第二項にいうところの「損害の賠償を受けたとき」に該当しないこととなるから、被告国は、同法第七二条第一項後段により、原告等に対し少くとも、前記岐阜査定事務所の当初の査定額金九三四、〇〇〇円により、本件事故による損害を填補すべき義務がある。

(一五)  よつて、原告等は、被告大岩及び被告会社の各自に対し、原告千代子は金一、二四〇、〇〇〇円、原告明雄、同正恵及び同幸郎は各金七二六、六六六円、並びに右各金員に対する、本件訴状送達の各翌日より完済に至るまで、いずれも年五分の割合による遅延損害金を附加して、それぞれ支払を求め、また、被告国に対し、右被告両名と連帯して、各金二三三、五〇〇円及びこれに対する、本件訴状送達の翌日より完済に至るまで、年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。被告大岩及び被告国の抗弁につき、その各主張事実を争い、特に、重過失の再抗弁について、原告等代理人が本件調停を成立せしめるに当り、政府より当初の査定額金九三四、〇〇〇円による損害填補を受けうるものと信じたことにつき、同代理人に重大な過失があつたものとはなしえないと述べた。

立証〈省略〉

被告大岩訴訟代理人は、「原告等の被告大岩に対する請求を棄却する。訴訟費用は、原告等の負担とする」との判決を求め、答弁並びに抗弁として、次のように述べた。

(一)  本訴請求原因中、(一)の事実、(二)の事実のうち、原告等主張の日時場所において、亡小次郎運転の原動機付自転車と被告大岩運転の軽四輪乗用車(すなわち、本件自動車)が衝突し(すなわち、本件事故)、亡小次郎が死亡したこと、(三)の事実のうち、被告大岩が本件事故につき、罰金刑(金三〇、〇〇〇円)に処せられ、その裁判が確定していること、(八)の事実のうち、原告等がその主張のごとく調停を申立て、原告等と被告大岩との間に、原告等主張のごとく本件調停が成立したこと、(九)の事実のうち、原告等が本件事故につき、本件調停成立当時、政府補償を請求していたこと、(一〇)の事実のうち、原告等がその主張のごとき金額の政府補償を受けえられるものと期待していたこと、以上の事実は、これを認めるが、その余の事実は、すべてこれを争う。

(二)  ところで、原告等は、被告大岩との間に成立した本件調停について、錯誤による無効を主張するのであるが、原告等に、本件調停を成立せしめるにつき、これを無効たらしめるごとき錯誤はなかつたものである。すなわち、本件調停の成否は、結局のところ、原告等が期待した政府補償額のほかに、被告大岩がいか程の賠償に応ずるかにかかることとなり、原告等の申出にしたがつて、金五六六、〇〇〇円の賠償をするということで、調停が成立したものであり、本件調停の骨子は、調停条項第二項の(1) にあつて、要するに、被告大岩が原告等に右金員の支払をなせば、原告等は、以後、同被告に対しては、本件事故の損害賠償請求を一切なさず、ただ、同被告より右金員の支払を受けるほか、別途に、同被告と関係なく、直接請求により、政府補償を受けるということであり(調停条項第二項の(2) は、その趣旨である。なお、同第一項には、被告大岩は、原告等に対し、金一、五〇〇、〇〇〇円を支払うこととせられているが、それは、同被告が支払うべき前記金員に、原告等が期待していた政府補償額を合算した金額を記載したものに過ぎず、同被告が原告等に対し、右記載金額を支払う趣旨のものではないこと、調停成立の経過より、明らかなところである)、これらの点においては、原告等に、何等の錯誤もなかつたものであつて、たまたま、原告等の期待した政府補償額につき、思違いがあつたとしても、それは、ひつきよう、動機の錯誤に過ぎず、本件調停における合意の要素に関するものとはいいえないから、これを無効ならしめるものではない。

(三)  仮に、原告等の右錯誤が、単なる動機のそれにとどまらず、本件調停を無効たらしめるものであるとしても、政府補償の範囲については、自賠法に明定せられているところであるから、原告等代理人がこれを看過して、本件調停を成立せしめたとすれば、原告等代理人に重大な過失があつたものというべく、したがつて、原告等は、政府補償額に関する錯誤をもつて、自ら本件調停の無効を主張しえないというべきである。

(四)  さらに、本件調停が無効であり、原告等がその無効を主張しうるとしても、もともと、本件事故は、もつぱら亡小次郎の過失に基き、惹起せられたのであつて、被告大岩は、これにつき損害賠償義務を負うべきいわれがないものである。すなわち、本件事故は、被告大岩が他車の進行に注意しつつ、時速三〇キロメートル位で、事故現場にさしかかつたところ、亡小次郎が無灯火で、方向指示器も出さずに、しかも、折からの降雨に雨具も着けず、身をかがめて、被告大岩運転車の直前を横断したため(なお、亡小次郎は、事故当時相当飲酒していた形跡もあつた)、発生したものであつて、対向して来た亡小次郎の姿が被告大岩運転車の前照灯に照らし出されたのは、衝突とほとんど同時であり、被告大岩としては、衝突の直前まで、亡小次郎の進行を認識しえなかつたものであるから、本件事故は、もつぱら亡小次郎の重大な過失に基き、惹起せられたものというべきである(ちなみに、被告大岩は、本件事故につき、罰金三〇、〇〇〇円に処せられ、これに服罪し、また、原告等より損害賠償請求の調停を申立てられ、原告等との間に本件調停を成立せしめいてるが、それは、人命を奪つたという結果の重大なことに、責任を感じて、右刑事処分に服し、民事の調停にも応じたまでであり、事故については、自己の過失を全面的に認めた故ではないのである)。

(五)  仮に、本件事故が被告大岩の過失に基き、惹起せられたものであつて、同被告にその損害賠償義務があるとしても、本件事故の発生は、前述のごとく、亡小次郎の過失にも負うところが多大であつたものであるから、被告大岩の損害賠償額を定めるにつき、これを充分に斟酌せらるべきである。

(六)  なお、被告大岩は、既に原告等に対し、金六六、〇〇〇円を支払つているから、原告等が本訴において請求する損害は、右支払金員の限度において、既に填補せられているものであり、また、原告等と被告大岩との間に成立した本件調停が無効であるとすれば、同被告は、原告等に対し、本件調停成立により支払つた金五六六、〇〇〇円の返還請求権を有するものというべく、被告大岩は、本件第八回口頭弁論期日(昭和四一年七月二八日)において、原告等に対し、右返還請求権をもつて、本件事故による被告大岩の損害賠償債務と、その対当額につき、相殺の意思表示をなしたから、右相殺の限度において、債務を免れたものである。

立証〈省略〉

被告会社訴訟代理人は、「原告等の被告会社に対する請求を棄却する。訴訟費用は、原告等の負担とする」との判決を求め、答弁として、次のように述べた。

(一)  本訴請求原因事実中、本件自動車が本件事故当時被告会社の所有であつたことは認めるが、被告会社がその保有者であつたことは否認し、その余の事実はすべて知らない。

(二)  しかして、被告会社は、昭和三八年三月一一日相被告大岩に対し、本件自動車を割賦販売により売渡して、右契約成立と同時に、これを引渡し、その使用を承認していたものであつて、ただ、右売買代金等の債権確保のためにのみ、その所有権を留保していたに過ぎず、したがつて、本件自動車の運行につき、何等の支配権を有せず、もとより、その運行による利益も、被告会社に帰属していなかつたものであるから、被告会社は、本件自動車の保有者といいえず、その事故による損害賠償請求を受けるべき筋合でない。

証拠〈省略〉

被告国指定代理人は、「原告等の被告国に対する請求を棄却する。訴訟費用は、原告等の負担とする」との判決、並びに担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求め、答弁並びに抗弁として、次のように述べた。

(一)  本訴請求原因中、(一)の事実、(二)の事実のうち、原告等主張の日時場所において、亡小次郎運転の原動機付自転車と相被告大岩運転の軽四輪乗用車(すなわち、本件自動車)が衝突し(すなわち、本件事故)、亡小次郎が重傷を負い、六時間後に死亡したこと、(三)の事実のうち、本件事故が被告大岩の自動車運転上の過失(前方不注視並びに徐行懈怠等)に基因して、惹起せられたものであること、なお、被告大岩が本件事故につき、御嵩簡易裁判所において、罰金刑(金三〇、〇〇〇円)に処せられたこと、(四)の事実のうち、亡小次郎が本件事故当時、原告等主張のホテルの従業員であつたこと、(八)の事実のうち、原告等と被告大岩との間に、原告等主張のごとく本件調停が成立したこと、(九)の事実(但し、通知した金九三四、〇〇〇円は、損害填補の予定額である)、(一一)の事実のうち、岐阜査定事務所担当係員小河義一より、原告等代理人に対し、原告等主張のごとき趣旨のことを申伝えたこと、原告等代理人より、原告等主張の日に運輸省の担当係官に対し、原告等主張のごとき趣旨の要望があつたこと(但し、担当係官は、原告等の要望するような取所いは不可能であろうと回答した)、(一二)の事実のうち、岐阜査定事務所より、原告等主張のごとき通知(但し、昭和四〇年七月二日附)をしたこと、以上の事実は、これを認めるが、その余の事実は、すべて争う。

(二)  仮に、原告等と被告大岩との間に成立した本件調停が、原告等代理人に要素の錯誤があつて、無効であるとしても、原告等のいう政府補償額に関する錯誤について、表意者たる原告等代理人に重大な過失があつたものであるから、原告等は、右錯誤の存することをもつて、自ら本件調停の無効を主張しえないというべきである。すなわち、自賠法第七三条によれば、被害者が健康保険法等の法令に基いて、損害の填補に相当する給付を受けるべき場合、または、損害賠償の責に任ずる者から、損害の賠償を受けたときは、政府は、右給付相当額または損害賠償額の限度において、前条第一項の損害填補(すなわち、原告等のいう政府補償)をしない旨、明定せられているところであり、現に、原告等の本件事故による政府補償請求においても、本件調停成立前の損害査定の段階で、原告等が健康保険法に基き給付を受けた埋葬料金三六、〇〇〇円及び加害者たる被告大岩より香典として受領した金三〇、〇〇〇円、合計金六六、〇〇〇円が、法定の補償限度額金一、〇〇〇、〇〇〇円より控除せられ、政府の損害填補予定額を金九三四、〇〇〇円として、原告等代理人に通知せられ、前記岐阜査定事務所係員より、右控除による法定額減額の説明もなされ、原告等において、右査定額を承諾していたのであつて、調停成立により、原告等が被告大岩より損害の賠償を受けた場合、それが政府の損害填補額に、いかなる効果を及ぼすものであるかは、原告等代理人において、当然承知すべきはずのものであるから、原告等代理人がこれを看過して、本件調停を成立せしめたとすれば、その点、同代理人に重大な過失があつたものというべく、したがつて、原告等は、右政府補償額に関する錯誤をもつて、自ら本件調停の無効を主張しえないというべきである。

立証〈省略〉

理由

一、被告大岩に対する請求について、

原告千代子が亡小次郎の妻、原告明雄、同正恵及び同幸郎がそれぞれその二男、三男及び四男である(長男充泰は夭折した)こと、昭和三九年五月一〇日午後九時三〇分頃、岐阜県美濃加茂市古井町下古井地内国道二一号線の太田橋北詰附近において、亡小次郎運転の原動機付自転車と被告大岩運転の軽四輪乗用車(すなわち、本件自動車)が衝突し(すなわち、本件事故)、亡小次郎が死亡したこと、原告等が原告等訴訟代理人を代理人として、同年一〇月犬山簡易裁判所に対し、被告大岩を相手方として、本件事故による損害賠償請求の調停を申立て(同裁判所同年(ノ)第七号事件)、昭和四〇年五月七日同裁判所において、同被告との間に、別紙調停条項記載のとおり、調停が成立し(すなわち、本件調停)、同日同被告より、右調停条項第二項(1) の金五六六、〇〇〇円の支払を受けたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

ところで、原告等の被告大岩に対する本訴請求は、前示原告等と被告大岩との間に成立した本件調停が無効であることを前提として、同被告に対し、改めて、本件事故による損害の賠償請求をなすものであること、主張自体より明らかであるから、先ず、本件調停が原告等のいうように無効であるかについて、考えてみることとする。

しかして、原告等が本件事故につき、本件調停成立当時、政府補償を請求していたこと、金九三四、〇〇〇円の政府補償を受けえられるものと期待していたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、証人小河義一の供述より成立を認めうる甲第二号証、第三号証及び乙第二号証、原本の存在及びその成立につき、原告等と被告国間に争いのないところにより、被告大岩との間においても原本の存在及びその成立を認めうる乙第一号証、第三号証及び第五号証、成立につき、原告等と被告国間に争いないところにより、被告大岩との間においても成立を認めうる乙第四号証の一、二、証人腰高栄の供述より成立を認めうる乙第六号証、証人小河義一、同平山由信、同今井和雄、同腰高栄、並びに原告本人熊谷千代子及び被告本人大岩幸一郎の各供述よりすれば、本件調停申立よりその成立に至るまでの経緯、並びに原告等の政府補償請求及びその経過として、次のような事実が認められる。すなわち、

(1)  原告等は、本件事故より一週間位後の昭和三九年五月一八日頃、知人の訴外平山由信等を介して、被告大岩に対し、損害賠償として、金五、二〇〇、〇〇〇円の支払を要求し、主として同被告の叔父訴外今井和雄との間に、その折衝を重ねたが、賠償金額について折れあえず、早急に示談解決の見込がなかつたので、原告等訴訟代理人を代理人として、同年一〇月五日犬山簡易裁判所に調停を申立て、同被告に対し、金三、四〇〇、〇〇〇円の損害賠償を請求するに至つたこと、

(2)  その後、右調停中、本件自動車には、事故当時自賠法による責任保険が附されていないことが判明したので(被告大岩は、加入期限満了の後、再契約申込をしていなかつた)、原告等は、原告等代理人に委任して、別途、同法第七二条第一項後段によるいわゆる政府補償を求めるべく、昭和四〇年一月一四日政府の自動車損害賠償保障事業の業務の一部を委託せられている訴外千代田火災海上保険株式会社岐阜支店を通じて、その請求手続をとつたこと、

(3)  そこで、右業務を委託せられた損害保険会社が共同で設置している自動車損害賠償責任保険岐阜査定事務所は(担当係員小河義一)、直ちに原告等の損害額等の調査に当り、これを金三、九二一、五七七円と査定して、政府の損害填補予定額を、当時の最高限度額金一、〇〇〇、〇〇〇円より、既に被告大岩から填補を受けた金三〇、〇〇〇円(同被告は、右金員を香奠として供えた)及び社会保険事務所から給付を受けた健康保険の埋葬料金三六、〇〇〇円(実質は、被告大岩が右金員を負担出捐した)、合計金六六、〇〇〇円を控除した金九三四、〇〇〇円とし、同年三月九日原告等代理人に対して、これを通知するとともに、右金額について承諾を求め、同月一一日同代理人より、その承諾を得たので、同月一七日頃運輸大臣に対し、原告等の請求書に調査書及び右承諾書を添えて、送付したこと、

(4)  しかして、原告等代理人は、右のごとく査定事務所より政府の損害填補予定額の通知を受け、その承諾書に署名、捺印して、これを提出したので、右査定額の政府補償を受けられるものと信じ、かつ、原告等が調停期日の回を重ねるうちに、早期妥結を望み、賠償金額について大幅に譲歩するに至り、被告大岩に対し、既に填補を受けた金額は含めずに、政府補償額と合せて、少くとも金一、五〇〇、〇〇〇円の賠償を申入れ、同被告も金五〇〇、〇〇〇円ならば支払に応ずる旨、表明していたところにより、同年五月七日、右査定額による政府補償を受けえられることを前提として、前記調停条項を承諾し、本件調停を成立せしめ、金員の授受を了したこと(このことは、調停条項第一項及び第二項の記載より、明らかにうかがわれ、なお、第二項(2) の但書は、被告大岩が出捐した前記埋葬料金三六、〇〇〇円について、賠償金より差引いてもらえると聞いていたので、同被告が調停調書作成のときになつて、右金員の減額を要求し、結局、減額しないことに説得されたのであるが、なお、右金員をめぐつて、政府補償額が増減せられることを懸念して、-実際には、右金額は、前述のごとく既に控除せられていて、全くの杞憂であつたが-右金額程度の政府補償の増減があつても、双方互に何等の請求もしないことを明確にするため、これを挿入したものに過ぎない)、

(5)  そこで、原告等代理人は、同年五月一八日頃、本件調停調書正本の写しを作成して、岐阜査定事務所に調停の結果を報告するとともに、速かに前記査定額による政府補償が得られるよう、配慮方依頼しておいたところ、その後、同査定事務所担当係員小河義一より、政府(運輸省)は前記原告等が調停において被告大岩から受領した金員を、自賠法第七三条第二項により、政府補償限度額より差引き、これを政府の損害填補額とする意向であるから、それにつき承諾を求めたい旨の電話連絡を受け、事の意外に驚いて、同月二九日同査定事務所に赴き、右担当係員に対し、自賠法の規定に牴触しないよう、政府補償額を本件調停成立前の日附で決定する処置を考慮してもらいたい旨要望し、さらに、運輸省にも電話してもらい、右担当係員を介して、また、自ら代つて直接、同省の係官に対し、同様善処方要望したが、そのような取扱いは困難であるとの返答であつたこと、

(6)  ところで、政府(運輸省)は、同年五月一八日頃岐阜査定事務所より、本件調停の結果につき、報告を受け、また、被告大岩に照会して、同月二一日頃同被告よりの回答により、本件調停における金五六六、〇〇〇円の授受を確認し、自賠法第七三条第二項により、当時における政府補償限度額金一、〇〇〇、〇〇〇円より、右授受のあつた金員を控除し(右金員のうちには、前記岐阜査定事務所の査定において控除せられた金六六、〇〇〇円は含まれていないのであるが、-したがつて、本来ならば、これをもさらに控除すべきであろう-運輸省では、これが含まれていると解していたようである)、その残額金四三四、〇〇〇円をもつて、政府補償額とすべきものとし、同月二五日岐阜査定事務所に対し、右金額について原告等の承諾を求めるよう、電話で指示したものであり、さらに、同年六月三日附書面をもつて、前記保険会社に対し、右金額を政府の損害填補予定額と決定し、これにつき原告等の承諾が得られれば、これを損害填補額として決定する旨通知したこと、

(7)  しかして、岐阜査定事務所は、これをうけて、同年七月二日附書面により、原告等代理人に対し、改めて同様の通知をなし、右金額につき承諾を求めて来たので、ここに、前記保険会社を通じての請求によつては、当初の岐阜査定事務所の査定額による政府補償は求めえないものとし、原告等は、本訴を提起するに至つたものであること、

以上のような事実を認めることができ、他に、右認定をくつがえすべき証拠はない。

右認定の事実よりすれば、原告等代理人が本件調停条項を承諾し、被告大岩との間に、調停を成立せしめたのは、近く政府より、当初の岐阜査定事務所の査定額金九三四、〇〇〇円による損害填補を得られるものと信じたからであつて、原告等代理人は、これを前提として、本件調停を成立せしめたものであり、政府補償が金四三四、〇〇〇円より得られないとすれば、その点において、原告等代理人に錯誤があつたものというべく、右錯誤は、本件調停における合意の要素に関するものであり、たとえ、それが合意の動機に関するものに過ぎないとみるべきであるとしても、表示せられたそれに関するものであること、本件調停条項の記載文言より、明らかであるから(調停条項第二項(2) の但書は、前示認定のごとき事情より、挿入せられたものであつて、当初の査定額が半額以下に削減せられるような場合をも予想したものではない)、本件調停は、無効であるといわねばならない。

ところで、被告大岩は、原告等代理人に本件調停を無効たらしめる錯誤があつたとしても、同代理人に重大な過失があつたものであるから、原告等は右錯誤をもつて、自ら本件調停の無効を主張しえないと抗弁するので、この点につき、考えてみるに、自賠法第七三条によれば、被害者が健康保険法等の法令に基いて、損害の填補に相当する給付を受ける場合、または、損害賠償の責に任ずる者から、損害の賠償を受けたときは、政府は、右給付相当額または損害賠償額の限度において、前条第一項の損害填補、すなわち、政府補償をしない旨、明定せられているところであり、現に、原告等の本件事故による政府補償請求においても、本件調停成立前の損害填補額査定の段階で、原告等が加害者たる被告大岩より香奠として受領した金三〇、〇〇〇円及び社会保険事務所より給付を受けた埋葬料金三六、〇〇〇円、合計金六六、〇〇〇円が、法定の補償限度額金一、〇〇〇、〇〇〇円より控除せられ、政府の損害填補予定額を金九三四、〇〇〇円として、原告等代理人に通知せられ、原告等がこれを承諾していること、前段認定のとおりであり、なお、証人小河義一の供述よりすれば、岐阜査定事務所の担当係員小河義一は、原告等代理人より求められて、昭和四〇年三月一〇日頃同代理人に対し、右控除による法定額減額の説明をなしていることが認められ、加うに、原告等代理人は、法律実務家たる弁護士であることを併せ考えれば、調停成立により、原告等が被告大岩より損害の賠償を受けた場合、それが政府の損害填補額に、いかなる効果を及ぼすものであるかは、原告等代理人において、当然承知すべきはずのところであるから、原告等代理人がこれを看過して、本件調停を成立せしめたとすれば、その点、同代理人に重大な過失があつたものとするほかなく、したがつて、原告等は、被告大岩に対し、前記政府補償額に関する錯誤をもつて、自ら本件調停の無効を主張しえないものといわねばならない。

そうすれば、本件調停が無効であることを前提とする、原告等の被告大岩に対する本訴請求は、その余の点につき、判断を加えるまでもなく、理由がないとしなければならない。

二、被告会社に対する請求について、

本件自動車が本件事故当時被告会社の所有であつたことは、当事者間に争いがない。

ところで、原告等の被告会社に対する本訴請求は、被告会社が本件自動車の保有者であることを前提として、同被告に対し、自賠法第三条に基いて、本件事故による損害の賠償請求をなすものであること、主張自体より明らかであるから、先ず、被告会社が本件自動車の保有者に当るかにつき、考えてみるに、証人小河義一の供述より成立を認めうる乙第二号証、被告本人大岩幸一郎の供述、並びに本件弁論の全趣旨よりすれば、被告会社は、昭和三八年三月一一日相被告大岩に対し、本件自動車を割賦販売により売渡して(代金、割賦利息を含め金四一九、五七〇円、頭金二〇〇、五七〇円、割賦金二一九、〇〇〇円、二四回払)、右契約成立と同時に、これを引渡し、その使用を承認していたものであつて、ただ、右売買代金等の債権確保のためにのみ、その所有権を留保していたに過ぎず、したがつて、本件自動車の運行につき、何等の支配権を有せず、もとより、その運行による利益も、被告会社に帰属していなかつたことがうかがわれ、被告会社は、本件自動車の所有者ではあるが、その保有者であることは、これを肯認するに足る何等の証拠もない。

してみれば、被告会社が本件自動車の保有者であることを前提とする、原告等の被告会社に対する本訴請求は、その余の点につき、判断をするまでもなく、理由がないとするほかない。

三、被告国に対する請求について、

原告等と亡小次郎との身分関係が原告等の主張のとおりであること、その主張の日時場所において、亡小次郎運転の原動機付自転車と相被告大岩運転の軽四輪乗用車(すなわち、本件自動車)が衝突し(すなわち、本件事故)、亡小次郎が重傷を負い、六時間後に死亡したこと、本件事故が被告大岩の自動車運転上の過失(前方不注視並びに徐行懈怠等)に基因して、惹起せられたものであること、原告等と被告大岩との間に、原告等主張のごとく本件調停が成立したこと、原告等がその主張のように、本件事故による損害賠償につき、政府補償を請求し、岐阜査定事務所が原告等主張のように、その代理人に対し、賠償額(但し、損害填補の予定額である)を査定して通知し、原告等代理人がその承諾書に署名、捺印して提出したこと、岐阜査定事務所担当係員小河義一より、原告等代理人に対し、原告等主張のごとき趣旨のことを申伝えたこと、原告等代理人より、原告等主張の日に運輸省の担当係官に対し、原告等主張のごとき趣旨の要望があつたこと、岐阜査定事務所より、原告等主張のごとき通知(但し、昭和四〇年七月二日附)をしたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

ところで、原告等の被告国に対する本訴請求は、前示原告等と被告大岩との間に成立した本件調停が無効であることを前提として、同被告に対し、前記当初岐阜査定事務所が査定した損害填補予定額により、本件事故の政府補償を請求するものであること、主張自体より明らかであるから、先ず、本件調停が原告等のいうように無効であるかにつき、考えてみるに、成立に争いのない甲第一号証乃至第三号証、乙第四号証の一、二、原本の存在及びその成立につき争いのない乙第一号証、第三号証及び第五号証、証人小河義一の供述より成立を認めうる乙第二号証、証人腰高栄の供述より成立を認めうる乙第六号証、証人小河義一、同平山由信、同今井和雄、同腰高栄、並びに原告本人熊谷千代子及び被告本人大岩幸一郎の各供述よりすれば、本件調停申立よりその成立に至るまでの経緯、並びに原告等の政府補償請求及びその経過として、前示被告大岩に対する請求について認定したごとき事実を肯認することができ(他に、右認定をくつがえすべき証拠はない)、同被告に対する請求について説示したごとく、本件調停は、原告等代理人に錯誤があり、無効であるといわねばならない。

そこで、被告国の抗弁につき、考えてみるに、原告等代理人の右錯誤については、同代理人に重大な過失があつたものとすべきことも、先に被告大岩に対する請求について認定、説示したとおりであり、原告等は、被告国に対し、右錯誤をもつて、自ら本件調停の無効を主張しえないものといわねばならない。

してみれば、本件調停が無効であることを前提として、被告国に対し、当初岐阜査定事務所が査定した損害填補予定額金九三四、〇〇〇円により、本件事故の政府補償を求める原告等の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないといわねばならない。

しかしながら、原告等は、前示認定のごとく、所定の手続により政府補償を請求していたものであり、政府(運輸省)も、法定限度額より、本件調停において授受せられた金五六六、〇〇〇円を控除した金四三四、〇〇〇円をもつて、政府の損害填補予定額と既に決定し、これにつき原告等の承諾が得られれば、これを損害填補額として決定する旨、原告等に通知しているものであるから、原告等が本訴において政府補償を請求している以上(原告等の本趣旨は、当初の査定額金九三四、四〇〇〇円でなければ、これを請求しない趣旨のものとは認められない)、改めて、政府の自動車損害賠償保障事業の請求手続によらしめなくとも、政府は、原告等に対し、少くとも、右金四三四、〇〇〇円の限度においては、損害填補の責に任ずべきものと解するのが相当であり、したがつて、被告国は、原告等に対し、各金一〇八、五〇〇円及びこれに対する、本件訴状被告国送達の翌日であること、記録上明らかな昭和四〇年七月一五日より完済に至るまで、民法所定年五分の割合による各遅延損害金を支払うべき義務があるものとしなければならない。

四、結び、

よつて、原告等の被告大岩及び被告会社に対する本訴各請求は、いずれも失当として、これを棄却すべきものとし、被告国に対する本訴請求は、前記認定の範囲において、相当として、これを認容し、その余の請求は失当として、棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行及びその免脱宣言につき、同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田誠吾)

別紙

調停条項

一、相手方は、申立人等に対し、金一、五〇〇、〇〇〇円を支払うこと、

二、その支払方法は、

(1)  昭和四〇年五月七日犬山簡易裁判所調停委員会の席において、金五六六、〇〇〇円を支払うこと(本日当事者間に授受を了した)、

(2)  金九三四、〇〇〇円(自動車損害賠償責任保険岐阜査定事務所の内示額)は、自動車損害賠償保険法による支払機関より、申立人が直接受領すること、但し、この金額に過不足を生ずるも、双方とも互に請求しないこと、

三、申立人は、その余の請求を放棄すること、

四、当事者双方は、本件事故に関し、将来何等の請求をしないこと、

五、調停費用は、各自弁のこと、

以上

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